「“あいまいなもの”の集合体に未来のくらしの鍵がある」 豊田啓介(建築家/noiz architects)

IMAGE BY TAKESHI KAWANO

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小さい頃は、典型的な埋め立て地のニュータウンの、ごく普通の3LDKのマンションで暮らしていました。うちは6階で、周囲が5階建てばかり広がっていた中、かなり遠くまで見渡すことができたからか、今でも高いところ、見晴らしのいいところが基本的に落ち着きます。

中でも特に好きだったのは、東南側に開けたリビングルーム。典型的な昭和70年代の3LDKレイアウトですが、とにかくバルコニー越しの眺めと開放感がありました。朝日が低く奥まで入り込む中立ちのぼる朝食のトーストの焦げる匂い、夏の夕方の網戸ごしにじわじわと入ってくる涼風(海風が抜けるので結構空調無しで過ごせました)を感じながら、ナイターのアナウンスをBGMに食べる素麺など、なんだか食事の記憶と結びついていますね。

そこから得た実感は、シンプルな幸せ感を大事にするということ。明るい、開けている、空気が抜けるなど、人工的な環境でもいろいろな場面で自然は抽出して感じることができます。同時に土地ごと人工的に造成されたニュータウンのすべてが直線的な構成への物足りなさも無意識に感じていたようで、一人のデザイナーにはデザイン不可能な、集落や民家が持つような、歴史だけが醸造可能な蓄積された思いや形のようなものへの憧れも、平行して形成されていたように思います。

いまから10年後には、自然とテクノロジーがごくシームレスに、お互いに意識せずに融合しているような環境を実現したいと思うし、自分でもそんな環境にどっぷり浸っていたいと思います。究極のテクノロジーって意識しないでいいくらい自然なものだと思うので。でも同時に、意識しないといけない、不便な面もあるというところに工夫や思いが生まれるというのも事実で、デザインって奥深いなと思います。

そんな未來の家にあったらいいと思うのは、「あいまいな入力デバイス」です。ボタンを押すとか数値を設定するとか一つの目的に一つの操作が対応しているような人・モノのインターフェースではなくて、あいまいで、大まかな傾向を抑えてそれに対応してくれれば大抵の場合はOKというような、ゆるくて多様なインタラクションのシステムが実装できると、生活はもっと楽しくなると思います。

「未来の空間は何か?」と問われたときに、思い浮かぶキーワードは「ゆるさ」。

基礎や定義が明確であることから機械的に導かれるようなテクノロジーではなくて、基礎も定義もあいまいなものの集合体が、それでも何か意味・価値を持つようなインタラクションのシステム、価値の体系に新しい技術やくらしの鍵があると思います。それを実現するテクノロジーと、それを開発して使いこなす新しいデザインの知見と感性の探索が、僕の仕事でもあり純粋な興味でもあります。

豊田啓介

1972年、千葉県出身。96年、東京大学工学部建築学科卒業。96-00年、安藤忠雄建築研究所を経て、02年コロンビア大学建築学部修士課程(AAD)修了。02-06年、SHoP Architects(ニューヨーク)を経て、2007年より東京と台北をベースに建築デザイン事務所noizを蔡佳萱と共同主催(2016年より酒井康介もパートナー)。コンピューテーショナルデザインを積極的に取り入れた設計・製作・研究・コンサルティング等の活動を、建築からプロダクト、都市、ファッションなど、多分野横断型で展開している。

現在、台湾国立交通大学建築研究所助理教授、東京芸術大学アートメディアセンター非常勤講師、東京大学建築学科デジタルデザインスタジオ講師、慶應義塾大学SFC非常勤講師。

http://noizarchitects.com/