「低い視線の先に」佐野文彦(建築家)

IMAGE BY TAKESHI KAWANO

IMAGE BY TAKESHI KAWANO

わたしが子どもの頃暮らしていた家は、木造二階建て。自分が生まれたのをきっかけに建てられた2世帯住宅でした。田舎なので今思えば結構広く、1階は和室、2階は洋室で構成されている瓦屋根の和風住宅でした。

その中でも、特に寝室が好きでした。床には毛足の短いカーペットが貼られ、布団が4人分敷いてあり、一面は作り付けの壁面収納になっている12畳くらいの部屋でした。

なぜかわからないのですが、寝室だけは何か違う香りがして、エアコンがあって、窓を開けたら裏に田畑が見えて、小学校に入って自分の部屋ができるまでは祖父の部屋かその寝室が自分の居場所でした。エアコンがそこにしかなかったので、小学生の頃は少年野球から帰ってきたらエアコンを18度に設定して布団をかぶって寝るのが好きだったんです。

そのときの経験がいまにどんな影響を与えているか、あまり意識したことはなかったのですが、あえて言うとすれば「低い視線」でしょうか。

布団しかない寝室は、家具もなかった。また、窓から見える遠くまで続く田畑は、実る稲穂やスイカやナス、庭に生えた梅や柿などの果実、一面に咲いたレンゲなど、季節や天候、自然との関係性を感じることができた。木造の芯壁構造だったことも、家の構成要素として桧の柱や砂壁、土壁、障子紙、石、天井板などさまざまな素材があり、その蝕感などを養えたのかもしれない。空間というか、環境そのものですね。
 いまから10年後は、自然と触れ合いながら、その時の生活に合わせて古い木造住宅を増改築しながら暮らしてみたいと思っています。
 
その未来の家のキーワードは、「場所と場所をつなぐもの」と言えるでしょうか。どこでもドアみたいな、それは「時間」と同じでもあるかもしれません。

佐野文彦(さの・ふみひこ) 
1981年、奈良県生まれ。京都、中村外二工務店にて数寄屋大工として弟子入り。設計事務所などを経て、2011年佐野文彦studio PHENOMENONを設立。大工として、技術や素材、文化などと実際に触れ合った経験を現代の感覚と合わせ、新しい日本の価値観を作ることを目指してデザインやインスタレーションをてがけている。2014年度ELLE DÉCOR Japanヤングジャパニーズデザインタレント、2016年度文化庁文化交流使。現代における「茶の湯」のあり方を探求し続けるアート集団『The TEA-ROOM』の創立メンバ。
http://fumihikosano.jp/