「未来の空間は、IoA(インターネット・オブ・アクション)になる」(佐藤ねじ/アートディレクター・プランナー)

IMAGE BY TAKESHI KAWANO

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子どもの頃は引っ越しが多く、団地、市営住宅などを転々と暮らしていました。3人兄弟だったので、自分の部屋を持つことができたのは中2くらいから。両親はデザインやクリエイティブなことには全く頓着がない公務員で、むやみに大きなタンスとか、統一感のない家具、散らかった部屋だったのを覚えています。おしゃれなインテリアとか、凝った家電とか家具など、かっこいい家とは一切縁がない一般的な家庭でした。

そんな僕が好きだったのは、実家よりも祖母の家です。昔ながらの平屋で、ぼっとん便所、古いタイルのお風呂、広い畳の部屋、大きな畑。特に好きだったのは子供たちがファミコンなどで遊べる部屋でした。

祖母の家に行くと、お菓子を食べながら、土曜のアニメや土曜洋画劇場を見るのが当時の一番の楽しみでした。その部屋でマンガ、映画、ゲームといったエンターテイメントをすべて学んできましたね。そこには石油ストーブがあって、そのせいか今でも石油ストーブの匂いを嗅ぐと体がゆるみます。その当時見ていた「バック・トゥ・ザ・フューチャー」などの映画や、ドラクエやファミスタなどのゲームの記憶は、祖母の家とリンクする僕の原風景なんです。

クリエイティブの鍵は「実家感」

人はどんなバックグラウンドを持っているかによって、オリジナリティがどう形成されるかが決まってくると考えています。その意味で、僕にとってのオリジナリティは祖母の家での体験が色濃く残っている気がします。

そのためか、日頃から僕は「実家感」という言葉を好んで使います。普段はデジタルコンテンツのデザインや企画の仕事をしている仕事柄、洗練されたものを求められることが多いのですが、そこで、自分の中にある「実家感」=「祖母の家っぽさ」をアウトプットに加えることで、「自分らしさ」を作っている感覚があるのです。

デジタルコンテンツは時に、冷たくて無機質なアウトプットになりがちですが、「実家感」を少し加えることで、ゆるさ・暖かさ・懐かしさなどが加味され、いい按配になるんじゃないかなと。変なたとえですが、スイカに塩をかけると美味しくなるみたいな、対局にあるものをつなぐことが大切だと思うんです。僕の手がけた「レシートレター」、「黒板アプリKocri」、こどもとのコラボ作品などなど、多くのアウトプットに「実家感」が垣間見えると思います。

インタラクティブに変化する、創造のための空間

そんな僕ですが、10年後くらいには、今よりもっとアイデアやクリエイティブを生みやすくなる環境に住んでみたいです。それは家の中だけの話ではなく、最寄り駅や近隣の雰囲気、近くのお店(アイデア出ししやすいカフェがあるか)、家から仕事場までの通路はポジティブかなど、仕事とプライベートを分けず、生活全体を楽しくデザインできる環境にしてみたい。

一方で家の中でいうと、天井が高く適度に広いところはアイデアが出やすく、こもった場所は集中しやすいので、作業に応じた場所を複数持っていたいです。部屋に置くものも、感覚的に気持ちのいいものと、生活をより便利にする新しい家電など、それぞれ異なるもの同士のバランスをうまくつけていきたいです。

そのさらに先の未来を想像するとき、「可変する家」はできないかなと思います。家に完成形はないし、自分の好きなものも時が経つにつれて変化していくので、気分に応じて変化させていける仕組みがあるとイイなと思います。

例えば、PCの操作だけて、家具の配置を自由自在に移動できる仕組み。かつて椅子に自動運転機能をつける試みを日産がやっていましたが、ああいうものが色々な家具にもあったら素敵ですね。その配置の仕方も、自分で設定できる「マニュアルモード」もあれば、色々なクリエイターのアイデアを集めて学習するAIが考え出した配置アセットがあるのも面白いなと。

それに、家具ブランドLandscape Products のAIや、画家のダリのAIがあったとき、彼らが僕の家の配置をするなら、どんな構成を編み出してくれるのか。配置に限らず、ダリがこの時計を買って飾れ、みたいな指示があってもいいかもしれません。節分の日には、豆まきをしやすいように家具たちが端っこに移動してくれたりと、毎日リフォームができるような考え方の家があったらいいなと思います。

インターネット(Internet)と人の行動(Action)がリンクする

家というものは、自分たちが変えなければ、何も変化が起きないのが寂しいところでもあります。一人暮らしだと飲みっぱなしのお茶がそのままテーブルに置いてあったりして、寂しいですよね。だから、もっとレスポンシブルな家があってもいいなと思うんです。

そんな「未来の空間」のキーワードは、「IoA(インターネット・オブ・アクション)、僕の造語です。「IoT(インターネット・オブ・シングス)」 の意味する「モノのインターネット」ではなく、人の「行動」とネットがもっと深い部分で絡み合った世界。

トイレに行けば自然と検尿・検便をして、健康管理に役立ってくれる。外国の人と話す機会の多い場所であれば、何かを話すと自然に机が翻訳してくれる。ゲームのプレイ中のフィードバックが、テレビやスマホだけでなく、部屋の照明やカーテンの動き、床の振動などで連携する。視聴率ではなく、テレビを見て笑った量が採れる視笑率。AIやカメラの進化により、こどものシャッターチャンスを親がカメラを手にもって撮影する以外の方法。このように行動に紐づくところに、もっとインターネットが絡んでくるといいなと思っています。

佐藤ねじ

1982年生まれ。アートディレクターとプランナー。面白法人カヤックから独立し、2016年7月に株式会社ブルーパドルを設立。「空いてる土俵」を探すというスタイルで、WEBやアプリ、デバイスの隙間表現を探求。代表作に「Kocri」「しゃべる名刺」「レシートレター」「貞子3D2 スマ4D」「世界で最も小さなサイト」など。文化庁メディア芸術祭、Yahoo!インターネットクリエイティブアワード、グッドデザイン・ベスト100など受賞多数。2016年10月、著書「超ノート術」を発売。