「未体験のテイストをあじわうところへ」諏訪綾子(フードアーティスト)

IMAGE BY TAKESHI KAWANO

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わたしの生まれ育った家は、能登半島の里山と里海に囲まれた場所にありました。家の前は見渡すかぎり水田が広がっていて、抜けのある自然情景がいつも目の前にありました。

家の中で、最も好きだったのは縁側。窓を開けると水田からの風が入り、縁側へ抜けていく。気持ちいい風の通り道になっている縁側で、窓を全部開け放って過ごすのがとても好きでした。

そこでは、季節や時間毎に変化する風の匂いや音や光をいつも感じていました。海の匂い、山の匂い、草の匂い、稲の匂い、花の匂い、水田の水の匂い、そして牛の匂い。それから、カエルや鳥、虫などの鳴き声、風の音。朝焼け、木漏れ日、夕暮れ、星空の光。ひとつとして同じものがなく、どんどん変化していく匂いや音や光に、感覚を研ぎすませていました。

あのときの経験は、様々な感覚を通して「体験としてのあじわい」を追求する今の活動につながっていると思います。

未来の空間を想起するときのキーワードは、「未体験のテイストをあじわう窓」。

将来の自分の家も、幼い頃に体験した縁側のように、時に心地よく、時に圧倒的な存在感を持って、五感を刺激してくれる、内面と外界の境界となる窓があるといいなと思います。窓を開ければ、好奇心を掻き立てる風が入ってきて、感覚が研ぎすまされる、そんな縁側が理想です。

 
© ittetsu matsuoka

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諏訪綾子(すわ・あやこ)

石川県生まれ。金沢美術工芸大学卒業後、2006年よりfood creation の活動を開始、主宰を務める。2008年に金沢21 世紀美術館で初の個展「食欲のデザイン展 感覚であじわう感情のテイスト」を開催。現在までに東京・福岡・シンガポール・パリ・香港・台北・ベルリン・バルセロナなど国内外で、パフォーマンス「ゲリラレストラン」やディナーエクスペリエンス「Journey on the table」、フードインスタレーションなどを発表している。

2014-15年には金沢21世紀美術館 開館10周年記念展覧会「好奇心のあじわい 好奇心のミュージアム」を、東京大学総合研究博物館とともに開催。人間の本能的な欲望、好奇心、進化をテーマにした食の表現を行い、美食でもグルメでもない、栄養源でもエネルギー源でもない、新たな食の価値を提案している。

www.foodcreation.jp
www.ayakosuwa.com