「有象無象の小さな動きが、街の未来を作る」連勇太朗(モクチン企画 代表理事)

TEXT BY SATOKO HIRANO EDIT BY SATOKO HIRANO PHOTO BY TETSUHITO ISHIHARA

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モクチン企画のオフィスは、蒲田にある築57年の木造一軒家。菜の花畑のまぶしい黄色に彩られた庭では、卓球台が抜群の存在感を放っています。ご近所さん達とのコミュニケーションツールとして活躍しているんだとか。

どこか懐かしく、つい長居したくなるような佇まいのオフィスで、LED電球スピーカーはどんな表情を見せているのでしょうか。

オセロをひっくり返すように街を転換する


戦後、大量に建てられた木造賃貸アパート(以下、モクチン)は現在、都内だけで18万戸残っているそう。空室化・老朽化していくモクチンを社会資源と捉え、再生のためのプロジェクトを実践している連勇太朗さん。

「モクチンレシピ」という改修のためのデザインリソースをウェブ上で公開することでアイデアを広め、魅力的な街づくりを目指しています。

「モクチンの面白いところは、街の中に点在してるところ。東京のモダナイズされた風景の中に、一歩入るとひっそりとあるんです。ただ、放火やホームレス問題、老朽化して地域のがん細胞のように扱われるような問題も多い。悪循環をもたらす装置になってしまっていることも…。 
僕らの基本的なシナリオは、モクチンレシピを広め、不動産屋さんやオーナーさんに実現してもらうことです。街中に点在するモクチンをオセロのように、魅力的に転換していくことで、街そのものを魅力的に変えることができるのでは、と考えています。」

どうやったら社会の問題に肉薄できるか
 

もともとアイデアを共有していくことに興味があった、という連さん。
学生プロジェクトとしてスタートし、協働しながらアパートをセルフビルドで改修して自分たちが住みたい空間を作るというプロジェクト自体は成功し、メディアにも取り上げられました。 

しかし、それと同時に違和感が生まれた、といいます。

「改修したアパートそのものはよくなった。だけど、周りを見て愕然としたのは、同じようなアパートが街には大量にある!ということ。

労力をかけたものが、単体の敷地内の出来事で終わってしまっていて、周囲に波及していない。街そのものは変わっていない。 

それが原体験となりました。

どうやったら社会の問題に対して肉薄できるか、というところが僕らの興味。それで生まれたのが、モクチンレシピなんです。」
 

相性が悪いわけない、裸電球と木造建築

そんな、レシピのアイデアが常に飛び交う連さんのオフィスで使用中の、LED電球スピーカー。

主に打ち合わせ時のBGMとして、音楽を流すことに使っているそうです。

まるでずっと前から、そこにぶら下がっていたかのような自然な佇まい。

「裸電球って、木造建築の象徴的なツールの1つでもあるんで、相性はとてもいいです。モクチンのアイコンが、今の時代にアップデートすると、こうなるという(笑)。

音と光を同時に放つところや、『どこから聴こえて来るの?』と来訪者を驚かすところがツールとして新しいので、コミュニケーションのネタによくなりました。」

庭の卓球台といい、場づくりのコミュニケーションツールとしてモノを捉え、常に実験する連さん。 

そこには「モノに思想が込められていることが大事。そういうモノが1つあるだけで、空間全体を変える力があるから。」という、モクチンレシピに通ずる考え方がありました。

 

思想のあるパーツが、空間を変える
 

「モクチンレシピも、ローコストで部分的なものです。

全部変える、のではなく部分的に変えることで、空間の持っていた魅力を蘇らせる。そんな『部分が持つ力』のパフォーマンスの高さ・空間への影響力を大事にしています。 

モクチンレシピには、一個一個のアイデアに僕らなりの、ものを作っている人間としての思いが込められているんです。」

そう言って、紹介してくれたのは「チーム銀色」というレシピ。

プラスチック製のパーツ類を劣化しないステンレス製に変えると、木質とメタリックを組み合わせの相性の良さが際立ちます。さらに清潔感もアップする、というもの。確かに、そのパーツひとつで全体の印象がガラッと変わって見えます。

「一個変わるだけで、無意識の印象が変わります。LED電球スピーカーそのものにも思想があるから、場を変える力を持っている。空間作りには、音と光が特に大事な要素ですから。」

思想のあるパーツが、空間を変える。「今ある空間をそのままに、新しい体験を生み出す」Life Space UXのコンセプトと、モクチンレシピの思わぬ共通点を見いだしてくれていた連さん。

「大きな都市計画が街の未来をつくるのではなく、有象無象の小さい動きが、未来を作っていく、と思っています。だから、このデバイスのようにピンポイントでアドオンできる、みたいなものが今後、世の中的にも求められているところ。

モクチン的にも、そんなツールがどんどん増えると面白いなあ、と思います。こういうものが増えることで、日本の社会や都市空間が豊かになっていく。そんな原動力のひとつになるんじゃないかな。」

今夏には、モクチンスクールなる不動産屋さん・オーナーさん向けの「学校」も開講予定だそうです
 


連勇太朗(むらじ・ゆうたろう)

建築家。1987年生まれ、2012年慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修士課程修了、2015年同大学大学院後期博士課程単位取得退学。2012年に木造賃貸アパートを魅力的な社会資源へと転換していくことを目的としたソーシャルスタートアップ、モクチン企画を設立。現在、NPO法人モクチン企画代表理事、慶應義塾大学大学院SFC特任助教、横浜国立大学大学院客員助教。