「古代から引き継ぐ、暮らしと美の関係」金理有(陶芸家・美術家)

EDIT & TEXT BY ARINA TSUKADA PHOTO BY TAKESHI SHINTO

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今回、「超短焦点プロジェクター」を使って、新たな「床の間」を提案してくれたのは、現代日本を代表する若手陶芸家であり、美術家としても活躍する金理有(きむ·りゆ)さん。古代の祭祀空間を思わせる土着的な造形美と、同時代のストリートカルチャーを融合させた独自の世界観を生み出す金さんにとって、これからの「空間と映像」の関係性をうかがいました。

日本には、古くから生活の中に美があった

最近、陶芸釜のあるアトリエから歩いて数分の場所に、作品倉庫として古い日本家屋の一室を借りたという金さん。そんな金さんが超短焦点プロジェクターを置いた場所は、古くより日本人が美を楽しむ空間でもあった「床の間」でした。

「以前、古い家を使って展示をしたとき、床の間の持つ魅力を再発見したんです。ふすま絵などもそうですが、生活空間の中に『美』をとけ込ませてきたのが日本。長い歴史の中で、日本人は床の間に掛け軸や生け花を飾って愛でてきたように、このプロジェクターを使えば、『日替りの絵画』ができるんじゃないかと思ったんです。真っ白な掛け軸の中で、龍が立ち上っていく映像なんかがあったら迫力ありますよね。機体も小さいから、手前に陶器や花器を飾れば目隠しになって、どこから映像が出ているのかわからない不思議な異空間になりそう。障子や土壁など、背景に質感があるものとの相性も良さそうですね。あ、ちょっとそこの庭の花でも活けてみましょうか」

空間を変容させる道具たち


美大時代から、前衛陶芸の世界に没頭し、陶芸とアートの融合を実践してきた金さんは、最近では茶人とのコラボレーションなど、茶の世界にも興味を示してきたそうです。

「茶室というのは、とてもミニマルな部屋の中で、どんな道具を置くかによって空間ががらりと変わってしまうことに気が付いたんです。その器や茶道具たちは、その風貌次第で感じる味すらも変えてしまう。これって、ものすごくアナログなインタラクティビティが存在していると思うんです。これまで、工芸美術というものはいわゆる西洋的な『美術』よりも一段格の低いものに見られがちだったけれど、用途をもったアートというのは生活の中に介在している。そんなとき、『機能(用途)と装飾』の関係軸はもっと深掘りできると思うんです。なぜ古来より人間は、用途をもった道具にわざわざ飾りを施してきたのか。それは、人間以外の動物にはない『心』の存在の証であり、アートは心の栄養素だったんじゃないかなって」

現代にひそむ祭祀の場

金さんの生み出す作品は、どれも古代宗教から現代にタイムスリップしたような、不可思議な造形をしています。縄文土器や古代の呪物に強い影響を受けたという金さんは、同時に現代のポップカルチャーの中にも、共通する普遍のエネルギーがあると語ります。

「昔、縄文土器の展覧会を訪れたとき、震えがくるほど感動したんです。これを、人の手で作り上げたことに畏敬の念を覚えました。それに、焼き物というのは1万年以上も残るもの。その大きな歴史の一端に自分も携わりたいと思いました」

「宗教や信仰は、必ず何らかの造形物の力を使って、その空間を演出している。そう考えたとき、これまでの宗教美術は空間の演出装置としてとらえることもできると思うんです。その『演出』という要素を取り出して考えると、同じことは今のポップカルチャーの中でも起きている。ロックスターにしても、初音ミクにしても、ある偶像に向かって熱狂するという状況は、何らかの心の拠り所を求めていることと変わらない。見えないものにも思いを馳せる行為は、人間の根幹にあるものだと思います。そうやって、古代の文化を今あるかたちとつなげて考えていくと、最初に話した通り、伝統的な床の間にインタラクティブな掛け軸が生まれてもいい。そんな思いで、今後も自由に作品をつくっていきたいですね」

金理有(きむ·りゆ)
陶芸家、美術家。1980年、日本人の父、韓国人の母のもと大阪府に生まれる。2004年、大阪芸術大学 芸術学部工芸学科陶芸コース卒業、2006年大阪芸術大学大学院 芸術制作研究科修士課程修了、同大学院芸術研究科研究員。現在、横浜在住。現代における「茶の湯」のあり方を探求し続けるアート集団『The TEA-ROOM』の創立メンバ。
http://www.riyookim.com/