「空間に立ちのぼる記憶と気配」新津保健秀(フォトグラファー)

EDIT BY ARINA TSUKADA TEXT BY ETSUKO ICHIHARA PHOTO BY TAKEHIRO GOTO

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TEXT BY ETSUKO ICHIHARA
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数々の著名人、建築、ドキュメンタリーなどを撮影し、多数のメディアで活躍している写真家、新津保建秀さん。彼は過去に開催した写真スクール「見えないものを撮る」というタイトル通り、場所に連なる人々の気配、時間、感情、匂いや言葉の堆積などをテーマに写真を撮り、イメージからこぼれ落ちるものをすくい取るようなアプローチをとっています。

土地の持つ「見えない記憶」に焦点をあてる

空間とは、それを見ている人の身体と密接に関わるものだと語る新津保さん。特に最近の関心は「庭」にあるそうです。

「2015年に香川県にある栗林公園内で開催された展覧会のための準備をきっかけに、庭が喚起するイメージのありかたに興味が涌きました。そのときのフィールドワークのなかで、いくつか実際の庭を巡る中でロンドン郊外にあるデレク・ジャーマンの庭にも行ってみました。そこで初めて気付いたのですが、あの場所からは遠目に原子力発電所が見えるんです。現場に立ってみると、原発から漏れてくるタービンの音が、非常に不気味なサウンドスケープを作っていて。音によって生成されるテクスチャーによって、同じ風景でも見え方がまったく異なってくるとあらためて強く感じましたね」

「写真はその撮影対象を高い具体性とともに記録することができるメディアですが、使っていくなかで、それではとらえることが困難なものが多いことに気が付くようになります。私の場合は、撮影を通して風景と向き合っているのと、かつてその場所で起きたことと、いまそこで感じているものとの関係性が気になってくるんです。『過去に起きたこと』は、その場所に滲み出る気配として現れてくると思っています」

以前、渋谷区猿楽町にある代官山ヒルサイドテラスに数年間アトリエを構えていた新津保さんは、土地がもっているものと身体の関係に強く興味を持つようになったと言います。

「ヒルズサイドテラスは、旧山手通りに面していますが、敷地の奥にすこし入ると緑が多く古墳が残っていたり、昔からの地域コミュニティが残っていたりする中、多様な職業の入居者がどんどん集まってくるんです。それは、この土地を代々所有している朝倉家の歴史が不思議な求心力を生んでいるからかもしれません。私は上のこどもが小学校を卒業するまでの間、この地で過ごしたのですが、その間にオーナーの朝倉さんから代官山の歴史を伺う機会も増え、土地の見えざる背景に思いを馳せるようになりました」

2012年には、この代官山ヒルサイドのギャラリールームで個展『\風景+』を開催しました。

「このときの個展では、膨大にある自分の過去の写真データをもとに、PCのデスクトップ上に表示したそれらのデータのピクチャを作品として展示するなど、目に映る『風景』とイメージのさまざまな関係を考察する展示を行いました。

 
そこでは、同じヒルサイドテラスの敷地内にある自宅のアトリエのテラスから見える風景を、ピンホールカメラを設置してストリーミングし、旧山手通りを隔てた別の棟の中にあるギャラリー内にプロジェクターで投影するというインスタレーションを行いました。ピンホールカメラの小さい穴から入り込んだイメージを、インラーネット上の情報空間と建築空間に拡張していくことで、カメラオブスクラがもつイメージと空間の構造を再考してみようと思ったのです。」

記憶や気配が立ち上がる、庭という空間

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「庭園という場所においては、そこに配置された個々の要素はもちろんですが、そこで偶発的に起こる様々な一期一会の出来事の立ち上がりが、庭の本質なんじゃないか、と思いました。最近、池上高志さんとの新作を準備しているのですが、この庭のリサーチの中で、考えた事を制作につなげたいと考えています。」

写真というメディウムを主軸にしながら、近年はドローイングによる作業を通して、イメージと身体性についての考察を行っている新津保さん。目の前に見えるイメージ、空間の背後にある気配を読み解いていくことは、見慣れた風景との向き合い方に新しい視点をもたらすものでした。

新津保建秀(しんつぼ・けんしゅう)
東京都生まれ。近年の主な展覧会:2017年「文化庁メディア芸術祭海外メディア芸術祭等参加事業シンガポール企画展 Landscapes:New vision through multiple windows」 2016年「複雑なトポグラフィーー箱庭」 (特別名勝 栗林公演,高松) などまた、今期開催される「北アルプス国際芸術祭」(長野県大町市)において、複雑系科学/ALife研究者の池上高志との新作出展が予定されている。
http://www.kenshu-shintsubo.com/