「記憶の波打ち際で、過去と現在がクロスする」鈴木康広(アーティスト)

EDIT BY ARINA TSUKADA TEXT BY ETSUKO ICHIHARA PHOTO BY TAKESHI SHINTO   

EDIT BY ARINA TSUKADA
TEXT BY ETSUKO ICHIHARA
PHOTO BY TAKESHI SHINTO   

日常の中にある見慣れたものを独自の視点で捉え、世界の見方を広げる作品を発表し続けるアーティストの鈴木康広さん。けん玉をリンゴに、キャベツの葉を器に見立てるなど、独特のユーモラスな発想を繰り広げる鈴木さんは、わたしたちをとりまく新しいテクノロジーと人間の創造性をどのように捉えているのでしょうか?

「リアル」の実感を求めて

鈴木康広さんのアトリエ兼研究室は、東京大学先端研究所が持つ緑あふれる敷地内の、歴史ある校舎の一角にありました。中に入ると、これまでに鈴木さんが手がけた制作中のモックアップが並び、「鈴木ワールド」とも呼べるアイテムでいっぱい。別室のギャラリーには鈴木さんのこれまでの作品がズラリと陳列しています。

「僕は美大を卒業した後、メディアアーティストの岩井俊雄さんのすすめで東京大学先端科学技術センターの助手となり、「五感」の情報通信に関する研究をはじめました。その後、VR研究の先駆者である廣瀬通孝さんのバーチャルリアリティ・プロジェクトに参加しました。そこでは、五感のセンサーからの入力を情報化するインターフェースをつくって、遠隔通信を行う研究をしていたんです。

でも、そのプロジェクトが始まると同時に、どこか違和感を覚えるようになったんです。そもそも『人の記憶』とはなんだろう、と。バーチャルリアリティで五感による感覚を情報化して、遠隔地で通信したところで、何がその人にとっての『リアル』なのかはわからないんじゃないだろうか。そんな疑問を持つようになりました」

最先端の研究の場に身をおきつつも、テクノロジーに対して批判的な目線も持っていた鈴木さん。人間の感情に影響をあたえるのは、もっと身近なモノなのでは、と語ります。

「僕自身にとっての記憶の外部装置を考えた時、誰もが利用できるハイテクなメディア技術を媒介にするよりもむしろ、過去に読んだ書籍やメモ、スケッチ、作品の方がよほど強い喚起力を持っている気がします。過去の自分が体験したことや作ったものをいま見るほうが、より現在の感情や着想と結びつきやすく、自分に対してリアルタイムに影響を与えるんです。

実は僕らは何かを認知した瞬間に、別のものを連想して投影しているのかもしれません。例えば、腕の良い映像ディレクターは、動画を撮影している時点で仕上がりを想像している。僕も、けん玉を見た瞬間に脳内で赤いリンゴが思い浮かんだりするのですが、友人の小林賢太郎さんはこうした連想力が非常に高くて、僕が話しているそばから連句のように何かを思いついてしまい、会話が成立しません(笑)」

記憶の波打ち際で、過去の自分と現在の自分がクロスする

人間の認知やテクノロジーに対して独自の視点を持つ鈴木さんは、超短焦点プロジェクターをどのように活用するのでしょうか。案内された小さな部屋の中には、プロジェクターから投影された映像がひっそりと浮かび上がり、文学的な静ひつさを漂わせていました。よく見てみると、机の上に置かれたノートのノドから、かすかな波音とともに寄せては返す波打ち際の映像が染み出しています。

「僕は毎日ノートに日々のアイデアや発見を書きとめているのですが、ノートは僕にとって必要不可欠な記憶のデバイス。過去のノートをめくって自分が書いた痕跡を見ていると、あるとき新たなアイデアやイメージとつながる瞬間が訪れるんです。その脳内でゆるやかに記憶がたゆたう様子は、なんだか波打ち際の波のリズムのようだと感じて。波打ち際にいるとき、波がいつ自分の足元に来るかはわからないけれど、そのうちやって来ることを知っているので、じっと足を止めて待ってみる時間がある。ノートをめくって新たなイメージを待つときの感覚は、これに近いなと思ったんです」

プロジェクターで過去の作品を投影していくうちに、投射した紙の上から即興で絵を描き始めた鈴木さん。
「これ、面白いですね。昔の自分が書いたものに触発されて、新たなことを思いついてしまいます」

超短焦点プロジェクターが思考をかき回すクリエイティブな装置として生まれ変わりました。過去の筆跡がもたらす連想から、鈴木さんはすぐに新たな着想を形にし始めます。それはまるで、パラパラマンガを飛び出したひとつのモチーフが、過去・現在・未来のあらゆる時間軸を多層的に飛び越えて、自由に世界を旅しているようでした。

つくることは、自分自身を知ること

何らかの情報をインプットしたそばから、呼吸をするように新しいアイデアをアウトプットしていく鈴木さん。次々と斬新なひらめきを生んでいく彼は、「何かをひらめくことによって、自分を知ることができる」と語ります。

「アイデアは、自分で頑張って絞りだすというよりは、『ふと思いついてしまうもの』。その思いついてしまった考えを振り返ることで、自分がいまどういうものに興味があるのかがわかるんです。つくったあとに、現在の自分の思考や認知のベクトルを発見したりする。僕が何かをひらめいて作品を作っていく一連の流れをみんなが楽しんでくれるからこそ、僕はいまこうしてアーティストとして活動できているのだと思います。それは、とても個人的な動機から生まれたものが、実はいろんな人の根源的な記憶とつながっているからかもしれないと思うんです」

また、生み出したアイデアを具現化するために必要なことはなんなのでしょうか?

「僕のアイデアスケッチは、日常の風景をちょっと変わった角度から見立てたもの。これを現実世界に生み出すには、工夫が必要です。例えば、『キャベツの器』という作品は、キャベツの葉っぱ1枚ずつの彫刻を重ね合わせたものなのですが、はじめは周囲から『実際につくるのはむずかしいのではないか』と言われたんです。でも、なかなか納得がいかなくて、試し続けてみたらできてしまった。人は『それはできない』と言われると、かえってモチベーションが上がるのかもしれません」

使い方の開かれた新しい装置に対してどう向き合い、自分自身のクリエイティビティを引き出していくのか。鈴木さん独自のアイデア創出法は、日々新しいインターフェースに囲まれている私たちに、テクノロジーへの向き合い方のヒントを与えてくれるものでした。

 
鈴木康広(すずき・やすひろ)

アーティスト。1979年静岡県浜松市生まれ。2001年東京造形大学デザイン学科卒業。2003年発表の『まばたきの葉』や、瀬戸内国際芸術祭2010での『ファスナーの船』など話題作多数。2014毎日デザイン賞受賞。現在、武蔵野美術大学空間演出デザイン学科准教授、東京大学先端科学技術研究センター中邑研究室客員研究員。作品集に『まばたきとはばたき』『近所の地球』(ともに青幻舎)がある。
mabataki.com