本と民俗学の視点から考える「日本の居住空間における ”これまで、そしてこれから”」

現在の形での営業も残りわずかとなった銀座のソニービル。5階にてLife Space UX の展示「新しい日本の居住空間」を開催中なのはお伝えしている通りですが、展示の空間から階段をあがった先の6階に、期間限定の本屋さんがあることは知っていますか?

ビールも楽しめ、連日様々なイベントを催している下北沢の本屋 B&B がプロデュースする「EDIT TOKYO」。「東京」というキーワードを軸に、編集者100人と、100日間で100本のイベントをするというなんともストイックな本屋にて、2月21日にLife Space UX の展示から派生したトークイベントを開催しました。(ちなみに、本イベントは第71回として開催!)

登壇したのは、「新しい日本の居住空間」で本の選書を担当したブックディレクターの山口さんと、民俗学者・編集者の畑中さん。

私たちが何気なく過ごしている普段の居住空間を、本と民俗学というアイテムを使って考察する試みやいかに? 

山口博之(やまぐち・ひろゆき) 編集者・ブックディレクター。1981年仙台市生まれ。立教大学文学部英米文学科卒業。大学在学中の雑誌「流行通信」編集部でのアルバイトを経て、2004年から旅の本屋「BOOK246」に勤務。06年、幅允孝が代表を務める選書集団BACHに入社。様々な施設のブックディレクションや編集、執筆、企画などを担当。16年に独立。ブックディレクションをはじめ、さまざまな編集、執筆、企画などを行ない、三越伊勢丹のグローバルグリーンや花々祭などのキャンペーンのクリエイティブディレクションなども手がける。

山口博之(やまぐち・ひろゆき)
編集者・ブックディレクター。1981年仙台市生まれ。立教大学文学部英米文学科卒業。大学在学中の雑誌「流行通信」編集部でのアルバイトを経て、2004年から旅の本屋「BOOK246」に勤務。06年、幅允孝が代表を務める選書集団BACHに入社。様々な施設のブックディレクションや編集、執筆、企画などを担当。16年に独立。ブックディレクションをはじめ、さまざまな編集、執筆、企画などを行ない、三越伊勢丹のグローバルグリーンや花々祭などのキャンペーンのクリエイティブディレクションなども手がける。

畑中章宏(はたなか・あきひろ) 作家・民俗学者・編集者。1962年生まれ。著書に『災害と妖怪』『津波と観音』(亜紀書房)、『柳田国男と今和次郎』、『『日本残酷物語』を読む』(平凡社新書)、『蚕』(晶文社)などがある。「WIRED.jp」で「21世紀の民俗学」を連載中。2月上旬にちくま新書から最新刊『天災と日本人――地震・洪水・噴火の民俗学』の刊行を予定している。

畑中章宏(はたなか・あきひろ)
作家・民俗学者・編集者。1962年生まれ。著書に『災害と妖怪』『津波と観音』(亜紀書房)、『柳田国男と今和次郎』、『『日本残酷物語』を読む』(平凡社新書)、『蚕』(晶文社)などがある。「WIRED.jp」で「21世紀の民俗学」を連載中。2月上旬にちくま新書から最新刊『天災と日本人――地震・洪水・噴火の民俗学』の刊行を予定している。

西洋化がもたらした、暮らしの変化

山口さん「今回本を選ぶにあたって、市中の山居=銀座のど真ん中、都会の喧騒の中で侘び寂びを楽しむというテーマがありまして。展示している、ソニーのプロダクトは、これからの暮らしの中でどういう風に使われていくのか? という視点から、茶室や空間全体に流れる空気と関連付けながら選んでいます。

とはいえ、ただ茶室の本ばかり、日本のインテリアについての本ばかりも面白くない。空間そのものに関しては、現場を体験したら十分だなとも感じてはいます。今回はせっかく茶室があるので、そこを起点に考えています。選書のポイントは以下の3つ。

1. ベーシックな部分を補うための、茶にまつわる本
2. 日本人のふるまい、所作につながる本
3. 日本独特の空間の仕切り方(ふすまなど)の本

茶室という空間は、わざわざ靴を脱いで体験する場所なので、空間の違いが生まれますよね。それを体験した後に、そういう類の本を読んでもらえると、椅子に座ることと床に座ることの違いがどうして生まれてきたのか、ということを感じることができるかなと思っています。

早速ですが、そこにつながる本をご紹介しますね。沢田 知子さんの『ユカ坐・イス坐―起居様式にみる日本住宅のインテリア史』は、大正時代に日本が現代化していくなかで、ユカ坐からイス坐へと、どう変化してきたかということを書いている本です。

大正時代から、日本の床坐はどういう過程を経て変化していったか? 団地住宅が日本の住まいを変えたのか? 洋式に変わって、生活はどういった変化があったのか? といったことを考えることができるかな、と。

いま私たちは最初から疑いなく洋服を着て生活していますが、この本の舞台は大正。服も和服から洋服へと変わっていったタイミングで、生活がガラリと変わっていった時代です。現代ではなかなか体験しづらい変化ですよね。」

畑中さん「日本では昔から、人の出入りのない部屋にも夢があって、それぞれの部屋に神さま、仏さまがいると言われてます。もともとの日本の民家の間取りは、そういったものも含めて培われてきたものです。

そういう、日本人の持っている従来の習慣がありつつ、あぐらをかくのは不健康になる! とネガティブなイメージだったものが、西洋化の流れに乗って、座敷から椅子にという流れにもつながってきたんでしょうね。」

山口さん「座り方に関してもう一冊。矢田部 英正さんの『日本人の座り方』から、正座が正しい座り方としてあったものではなく、武家的なものによって制定されたものであるという話です。昔は正座そのものがなく、崩しても全然いいんだそうですよ。立て膝状態なども割と普通に行われていたらしく、そういったことを、身体の構造の観点から書かれています。

展示空間の茶室で正座をして、辛かったな〜って時にこの本を読むと、『あ、全然正座じゃなくてもよかったんだ!』なんて発見もできるかなと思っています。」

畑中さん「でも……あぐらって人間の動作としては自然で、仏像もあぐらかいてるじゃないですか。ただ、平安時代の浄土教の阿弥陀三尊っていうのがありまして、その仏像は正座をしているんです。仏像ってだいたい、あぐらかいてるか立ってるかなんですけど、阿弥陀三尊はあぐらかいてる如来の横で、菩薩が正座しているんです(笑)。武家社会から始まるまえから、正座というスタイルのものは割と見かけることもできますよ。」

山口さん「なるほど。あと、もう一つ日本の居住空間の考え方として面白いなと思ったのが、柏木博さんの『「しきり」の文化論』より、しきることで何が生まれるのか? というお題なんです。しきることで、奥と手前という考え方が出来てくるということが、面白いですよね。

これらの本は実際に展示空間に置いてあるので、ぜひ手にとってじっくり読んでみてください。」

などなど、展示空間に置く本を一冊選ぶにも、いろいろな観点からピックアップをしてくださいった山口さん。実は、山口さんイチオシの本があったのですが、空間のトーンとあまりに違うと却下したのが……こちら。

30代前後の方は持っていた、という人も多いのではないでしょうか? 『CUTIE インテリアBOOK』『smart インテリアBOOK』の文庫サイズのムック本。2000年前後に発刊したもので、床も壁も市松模様のサイバールームから、和室を我が城にすべく押入れDJブースに改造した部屋など、懐かしのインテリアが並びます。

なるほど、確かにこれはあの展示空間では浮く…かも……。会場内で回し読みをしては、あちこちから懐かしいような、こそばゆいような吹き出し笑いがこぼれます。

山口さん「団地が一気に広がりつつも、出生率は2人の時代。そうなると、子どもひとりにつき一部屋が与えられないんです。いまは当たり前のワンルームアパートは、1970年後半あたりからでき始めたので、自分だけの空間を始めて持つというタイミングで『やりたかったこと』が爆発したのがこういったインテリアなのだと思います。

今はなかなかここまで個性が爆発した部屋を見ることは少なくなってきましたが、アイドルのポスターやキャラクターのインテリアに囲まれた部屋は、八百万の神の精神から考えると、神様に囲まれている空間とも言えるかもしれません。壮大な話になってしまいましたが、人に見せるわけではない場所がどう機能しているのか、という考察にもつながるかもしれませんね(笑)。」

日本に根付く、神さま仏さまと住まいの関係

山口さんからバトンタッチして、今度は畑中さんが民俗学の観点から選んだ居住空間に関しての本を紹介します。編集者でもある畑中さんご自身が編集した本から、2016年映画化が話題になった漫画、『この世界の片隅に』まで、幅広いラインナップが並びます。

畑中さん「川添登さんの『民と神の住まい』は、もう古本でしか手に入らないんですけど、実はこれ、もともとかっぱブックスで出してたんですよね。間取りごとに、神さま仏さまがいるという考えを、住居調査から発展させて深めているんです。

日本人は神仏信仰といって、神さまも仏さまもまぜこぜに扱っていますが、この調査では土間には土間の神さまが、かまどにはかまどの神さまがいてと、ある種のヒエラルキーや住み分けがされているという展開をしています。かまどの神様を床の間に呼ばない、神仏隔離という概念なんですよ。そういった考えを、少し一般向けに人間の住まいというものを書いた本です。」

畑中さん「こうの史代さんの漫画『この世界の片隅に』は、ちょっとネタバレになるからあまり言えないけど、物語の夫婦は真宗同士だから、仏式で結婚式をあげるんです。お坊さんが家にきて、お経を読む。あと、この物語は物の怪がキーワードになっているんだけど、その話に関しては 『この世界の片隅に』は優れた“妖怪”映画だ!民俗学者はこう観た という記事をどうぞ。

小説から選んだのは、保坂和志さんの『カンバセイション・ピース』。今思うとすごく豪華な出演者のトークイベントを湯島天神でしたんだよね。せっかく神社でやるならと、女性は浴衣で参加というハードルもあげて! 僕自身が神社を好きだし、毛色がかかってておもしろいかなと思って開催したんだけど、シークレットゲストがいてね……。」

シークレットゲストは、トークイベントに来た人の胸の内に。畑中さんは大ファンだそうで、この笑顔!

シークレットゲストは、トークイベントに来た人の胸の内に。畑中さんは大ファンだそうで、この笑顔!

……話は脱線し、この日一番の盛り上がりを見せたのですが、本の話に戻りまして、カンバセイション・ピースとは、家族肖像画のことを指します。

畑中さん「ヨーロッパで描かれた家族肖像画である種のスチルライフ的な静物画の一種でもあるんだけど、家族は並んでるだけで会話しているわけでもないんです。じゃあどこでカンバセーション=会話しているかというと、その絵に描かれた子供達がその絵の前でご飯を食べる。そして、その人が死んだ後に、同じ場所で子供や孫がご飯を食べて、肖像画と会話をするということなんです。

この話は、これといって大したことが起こるわけじゃないんだけど、人の出入りや間取りが濃厚に描かれていて、家が主人公の話なんです。どこかの家で行なわれている会話すなわちどこかの家の暮らしを、他の部屋で聞くという、退屈だけど飽きさせない小説です。」

グラスサウンドスピーカーから見る民俗学?

これまでの暮らしとこれからの暮らしを、様々な本を介して考えた2時間。締めくくりのきっかけをつくったのは、実は『CUTIE インテリアBOOK』、『smart インテリアBOOK』でした。

山口さん「エクステリアに対してのインテリアで、内部空間のことを言いますけど、インターネットの中の世界で生きている人は、モニター内にインテリア=部屋がある。部屋の中がエクステリアになるという入れ子状態で、反転していく感覚は今までにないですよね。

個性が爆発していたこの頃とはまた違う今の暮らしを考えると、人を呼ぶ、呼ばないという二極化が進んでいるのかもとも感じるんですが、人に見せるわけではない場所、というものはどういう風に機能していくんでしょう?」

畑中さん「モニターの中に部屋があって、SNSなどでコミュニケーションを図ってとなると、インテリアへの考慮はなくなっていく予感がしますね。スマホやパソコンが発達してから、コンテンツがモニターの中で融解していて、空間の外と中という境界やニュアンスが曖昧になっていく気はします。」

畑中さん「インテリアという面だと、まさに昔はスピーカーもどでかくて、インテリアそのものだったんですよね。そこでソニーがウォークマンを開発して、それまで部屋のなかで聞くものだった音楽を、内向きの個人のものにした。舞台と聴衆、スピーカーと人間といったように、音楽を外部と内部に分けて、好きな音楽を自分だけのものとして楽しむことができるようになりましたよね。

ただ、ソニーが面白いのは、展示空間にも馴染んでいるこのグラスサウンドスピーカーのように360度に向けた外向きの製品も作っているところ。」

現代の暮らしからみるインテリアの話からつながり、ここで出てきたのはなんとグラスサウンドスピーカー。

畑中さん「元々の音楽の楽しみ方って、囲炉裏とか、焚き火とか、あかりをみんなで囲んで歌っていたのがはじまりじゃないですか。ヨーロッパでも、元々はサロンで楽器を取り囲んで音楽を楽しんできた。

いまの暮らしを話すと言っても、現代とはたかだか100年くらいの話です。それまでの音楽は外向けに、あかりとともに楽しむものなので、このグラスサウンドスピーカーは人類の歴史と紐づけられるから、民俗学にもつながります。

柳田 國男さんの『明治大正史 世相篇』という本がありますが、明治や大正に流行したものや新しく生まれた道具が、必要性があって生まれた道具なのか、誰かが求めているからそれができたのか。あるいは、モノが生まれたから流行したのか、生活が変わったのかということって、ちょっと時間が経つだけでわからなくなります。

多くの場合は何かの商品から生まれてブームになったんだろうけど、そんなことすらわからない。実は風俗流行の生まれ廃れと、それによって生活がどう変わるか、人の気持ちがどう変わるかみたいなことそのものって優れた民俗学なんです。だから、このスピーカーひとつとっても、民俗学的な話はいくらでもできますね。

ちなみに、グラスサウンドスピーカーのあかりと音楽の機能は囲炉裏と通じるところがあるよねということを、畑中さんとグラスサウンドスピーカーの開発者であるソニーのアコースティックマネージャー・鈴木伸和、アートディレクター・塩野大輔が話した記事も最近公開されたばかり。グラスサウンドスピーカーと囲炉裏の共通項っ て? 気になる方はぜひご一読を。

そのデザインは「囲炉裏」を再構築するかもしれない──ソニーの「光」と「音」を民俗学者・畑中章宏が訊く:「グラスサウンドスピーカー」

暮らしの話からどんどん話は膨らみ、最後はグラスサウンドスピーカーに見る民俗学まで及んだ2時間。展示空間に置いてある本の見方が、がらっと変わったのではないでしょうか?

EDIT TOKYO の壁にはトークイベントの話し手によるコメントがぎっしり並んでいる。コメントを見ることができるのも3月31日までなので、ぜひ自分の目で言葉を味わってみてくださいね。

EDIT TOKYO の壁にはトークイベントの話し手によるコメントがぎっしり並んでいる。コメントを見ることができるのも3月31日までなので、ぜひ自分の目で言葉を味わってみてくださいね。

山口さんが選んだ本が並ぶ展示「新しい日本の居住空間」は今月末まで。ぜひ、靴を脱いで和室で正座をしたり、椅子に座ってみたりしてみてはいかがでしょうか。もちろん、その手には山口さんが選んだ、日本の暮らしを考える本を携えて。

(TEXT & EDIT BY AYUMI YAGI)

(PHOTO BY TETSUHITO ISHIHARA)


【建築家 佐野文彦とソニー Life Space UX が提案する「新しい日本の居住空間」】

展示期間:2016年10月26日〜2017年3月31日
営業時間:11:00〜19:00
定休日:なし
会場:東京・銀座 ソニービル5F ソニーイノベーションラウンジ(東京都中央区銀座5-3-1)
展示情報ページ:http://www.sony.co.jp/Products/products-for-life-space/news/report_20161024.html