利休も羨む、500年後の「市中の山居」。

たとえば目隠しをされて連れて来られて、このフロアの真ん中でそれを外されたら「あ、自分は今、新しい日本に来たんだな。」と妙に納得してしまうかもしれません。

それほど、五感がひらくような清々しさが同居した新しい空間。それはまるで、心が落ち着くのに、不思議と背筋がピンと伸びるような。

この空間のコンセプトは「市中の山居(しちゅうのさんきょ)」。

かつて、千利休などの茶人たちは、都会の生活のなかに自然に近い空間をつくることによって、理想の暮らしを仕立て、その対比を楽しみ、そう呼んでいたそうです。大都会の喧騒と、障子一枚隔てただけの空間に、心を静かに落ち着かせて集中できる別世界を作る。それが昔の茶人や武士たちのこころを解放する方法だった、といいます。

500年経った今、もし千利休を連れてきて、この市中の山居を見せたら冷静沈着と言われた彼も、腰を抜かすんじゃないでしょうか。

海外からのお客様で日中は埋め尽くされる、というのも頷けます。

2016年10月31日、ソニービル5Fのソニーイノベーションラウンジにて、この和空間のオープニング記念イベントが開催されました。

ゲストは、この空間を作った元数寄屋大工の建築家・佐野文彦さんと、最新のインテリアを紹介するデザイン誌『ELLE DÉCOR』のブランドディレクター・木田隆子さん

佐野さんは、大工として、技術や素材、文化などと現場で触れ合った経験を、現代の感覚と合わせ、新しい日本の価値観を作り続ける建築家・美術家として最注目されています。また世界を飛び回り、素材収集や作品を作り続ける文化庁文化交流使としても活躍中です。

今回、そんな佐野さんとLife Space UX がコラボレーションして作り上げた空間の中で、コンセプトにまつわる詳しいお話を伺いながら、参加者と共に味わいます。

紅葉や苔と溶け合う、プロダクトたち

「こだわりは、石や紅葉、苔は展示だから偽物を…ではなく、全て本物を使っているところです。」

と佐野さん。

実は、紅葉の下には水分が行き渡る仕掛けが埋まっていて、スタッフの方が毎日、お水をあげて育てているそうです。そんな生き物とも、不思議と溶けあうLife Space UX のコンセプト製品たち。

紅葉の傍らで、まるで灯籠のような温もりのある光を投げかけているグラスサウンドスピーカー。有機ガラス管を震わせて360度に音を広げるこのスピーカーは、LED電球スピーカーと一緒に、立体感のあるサウンドスケープを繰り広げています。

©Seiji Fujishiro / Hori Pro

©Seiji Fujishiro / Hori Pro

心を和らげてくれるのは、秋の野で聴く虫の鳴き声など、しっとりとした和の設え。

4K超短焦点プロジェクターが描き出しているのは、影絵作家・藤城清治さんの影絵作品。圧倒的に鮮やかな色使いと漆黒のコントラスト、幻想的な世界観が147インチの大迫力で目の前に迫ってきます。

「栃の木の木目を開いてすべて鏡のように合わせ、左右対称にした」という、木目の模様がアート作品のように美しいテーブルの上には、書の体験ができる作品が。

こちらは書道家・万美さんとのコラボレーション。ポータブル超短焦点プロジェクターが、誰でも美しい書が書ける、なぞり書き体験を提供しています。

「Life Space UXのコンセプトは『今ある空間をそのままに、新しい体験を作り出そう』というものなんですが、日本的なものを扱うのは初めてなんです。日本の、自分達の暮らしってどんな風に変わっていくんだろう?という問いから、建築家の佐野さんと一緒にこういった【新しい日本の空間】が提案できるんじゃないかと、考えました。」

と、話すのはソニーの森原。

元数寄屋大工の建築家 meets ソニーの遊び心とチャレンジ精神そのもののプロダクツ。それにエルデコ・木田さんのプロフェッショナルな目線を絡めて学べる、秋の夜長がスタートしました。

「大安の日に布団持ってきて」と言われ数寄屋大工の道へ。

トークショーは、司会のソニー 森原がランダムに選ぶ「質問カード」の質問に沿って進行していきます。

まずは「なぜ、数寄屋大工に?」という質問から。

佐野さん「建築家になりたい!と思ったのは19か20の頃でした。当時、北欧家具屋でアルバイト中に知ったヤコブセンのように、家具も建築も全部出来るようになりたいと思いました。でも調べてみたら有名な建築家はみんな東大卒。全然勉強していなかったし、今からは無理だと思いました。」

その後、家具屋の裏にあった工務店の作品集をたまたま見かけ、クライアントのそうそうたる顔ぶれ(ジョン・レノンや東山魁夷、松下幸之助、etc)に衝撃を受けた佐野さん。

「浪人して東大に入ったとして、そこの同級生と同じコンテクストしか持たない、というのはどうなんやろか。違うことをしたほうがいいんじゃないのか?と思い、工務店に弟子入りして5年間突っ込んでみようか、と決めました。」

そうして、冒頭の台詞で親方に弟子入りを認められた佐野さんは、10人暮らしの寮生活をスタートさせます。先輩達からの想像以上の可愛がり(!?)で、大いに鍛えられながら素材の知識や技術を磨き上げていきました。

「つらくなかったの?」と、木田さん。

佐野さん「もうすこし遠くを見ていました。現代建築や展覧会を観に行ったり、友達の家をリノベーションさせてもらったりして『俺がやった』と言える作品を実践で作っていったんです。若い左官屋さん達とチームを組んで。」

木田さん「そこからスタートしているのが、これからとてもいい形で出てくる気がする。今、日本そのものが世界ですごくブームなの。海外のデザインや建築の人達が、日本建築を観て、身震いするほど感動して帰っていくのね。日本の、鎖国中に磨き上げた直線の文化がすごく影響力を持ってるの。西洋は、長い間ずっと装飾文化だったから。」

これから、最終的にはいろんな製品が空間に消えていくんじゃないかと。

「Life Space UX だからこその、日本的な空間とは?」

佐野さん「ソニーのプロダクトは空間の中に溶けるので、壁の中に消えていったり、照明の中に消えていく。逆に見えないから、大変でした(笑)。強すぎたり弱すぎたりしないように、何度も調整しました。これから、最終的にもっといろんな製品が消えていくんじゃないかなと思います。」

木田さん「銀座のビルの5Fに作った、と聞いて、どんなものが!?と思っていたんです。入った途端、スッキリと縦横が整えられた気持ちのよい空間が広がっていました。自然素材と、現代の私たちが手放せない音楽・照明・映像が一体化してる。佐野さんの経験値なのか、日本建築の数学的な考え方からくるものなのか、気が整う感じがしました。」

参加者のみなさんからも

・「まずプロダクトが飛び込んでくるのかな?と思ったら、完全に空間に同化していて驚きました。」

・「茶室=暗い、というイメージがあったが、明るくて未来感がありました。」

などなど、初めに抱いていたイメージを気持ちよく裏切ってくれた、新鮮な空間に対するおどろきの声があがりました。

2001年宇宙の旅、のラストを日本人が作り変えたら、こうなる。

佐野さん「奥の空間はちょうど四畳半がすっぽり入るサイズだったんです。オーセンティックな京間で、本当にお茶会ができる実用的な空間にしました。

畳も白くて、半目で目が細かいものを選んだ。そうすると面に見えて、畳らしく見えすぎないんですね。[違う情報を入れすぎないこと]を意識しました。」

木田さん「和モダン、って言葉はあまり好きではないけど、そんな言葉にはまらない良さがあるよね。和室って暗かったり、もっと荒っぽい素材が使われていたりするけれど、そうじゃない。光が回っていて、それが気持ちいい。2001年宇宙の旅、のラストはコレじゃないか、という気がするわ。」

「2001年宇宙の旅」のラスト、主人公が突然、ロココ調の真っ白な部屋で食事をしているという伝説的名シーンの部屋が、もしこの和室だったら?

「うん、それはそれですごくアリ。」キューブリックもそう言うんじゃないかと思う程の未来感が、この和空間にはあるような気がします。

佐野さん「お茶の中の教え、として真行草(しん・ぎょう・そう)というものがありますが、この空間は『真』なんですよね。『真』というのは基本となる型。『草』はまがった木のようなもの、個性的で型破りなもの。『行』はその中間で基本を守りながらも、異なるものを取り入れているもの。」

日本的な空間は、いつも「芯」を狙う。

「佐野さんにとって、日本的な空間とは?」

佐野さん「すごい『芯(しん)』を狙ってくるものです。真ん中を狙ってくる。全体の壁の寸法をいくつで割って…床柱がセンターなのか、全体のセンターなのか。センターセンターとか、芯々(しんしん)、とか建築用語で言うんですけど、ぴっちり合わせようとしてくるところが日本建築らしいところです。

森原「確かに、どこに線をひいても、全部ぴしっと揃っているんですよね。和空間に来られたゲストの方が口々に『すごく落ち着くんだけど、気が引き締まる、スッと背筋が伸びる気持ちよさがある』というのは、『芯を狙って』作られているからなんでしょうね!」

そこで、おそらく参加者のみなさんも一様に、和空間で感じていた「落ち着くけど、なんだか背筋が伸びるふしぎ」の理由がわかり、大きな頷きや感嘆の声があちこちで生まれていました。

時間の流れの、違う場所をつくりたい

「どんな建築を作ってみたい?」

佐野さん「数寄屋建築もそうですけど、材料を吟味して、お金をかけて昔の人が作ったものはすごく良い。なのに今は、例えば機能的にサッシやマンションのほうがいい、ということで壊されてしまう。ファンクションは足りないかもしれないけれど、もうこんなの作れないんですよ。」

木田さん「新しくできた建築でも、長い人生の時間を過ごせば愛着が湧くんじゃないか?と言う人がいるけれど、それは無理なの。素材は全部コストパフォーマンスでやっているから、単にボロボロになるだけ。昔のようにいい石を積んだり材を吟味したものは使っていないから。」

佐野さん「僕なんか生きてるの短いから、もっと先に残していけるようなものが作りたいです。時間の流れの違う場所を作りたいですね。」

数寄屋=デザイン運動!?

「未来の日本的な空間とは?」

佐野さん「数寄屋という言葉がありますよね。数寄屋建築って何?って聞かれても実はわからないんです。フォーマットが確定していない。ルールが確定していないままココまで来てるんです。」

数を寄せる、と書いて数寄。自然の形のまま、木や石やガラスなどいろんな素材を寄せて使う。それが数寄屋……ではない!?

佐野さん「辞める日に、親方に『数寄屋ってなんですか?』と質問したんです。」

そしたら、親方から返ってきた答えは

「千利休がな、飛び石を作った時に【渡り六分に景気が四分】と言ったんや。でも織部は【渡り四分に景気が六分】と言ったんや。

……そういうことや。」

佐野さん「それって何やねん!どういうことや、と思いました。」

(会場内、爆笑)

その親方の言葉を受けて「渡り(歩きやすさ)が6、景気(見た目)が4」というのに必ずしも縛られず、自分達で変えていけるものなんだ、と佐野さんは考えたそうです。

もともと、数寄という言葉は『好き』=こだわり。から来ているのだとか。

佐野さん「数寄とは、担っていく人が、時代ごとに進化させていくもの。つまりデザイン運動です。『新しいものに挑戦していく』というメンタリティー。ガラスやステンレスを使ったりするが、こだわりを持って作っていけばそれも『数寄屋』。(未来の日本的空間も)敢えてカタチを決めなくてもいいのではないかな。」

木田さん「伝統的な自然素材の良さを求める、という部分は過去に戻りつつ、ものすごいテクノロジーを乗っけていく。伝統の技術や数寄デザイン運動と、最先端のものが一体化したハイブリッドな空間になっていくんじゃないかな。もう一度、元々持っていた美意識に戻る余裕を、みんなが取り戻せている気がします。」

ここには、何かがある。

「さいごに、この和空間について」

佐野さん「家電が正面に立つのではなく、空間に溶け込んでいくような新しい価値観と、快適さだけではなく、無駄のある良さもある日本建築。

将来まで長く残していけるものとして手間をかけ、丁寧に作っていく技術。そういうものが合わさった『新しい何かを考える、ひとつめの場』になればいい、と思っています。」

木田さん「ソニーの最先端な技術と、佐野さんのように伝統的なものをこってり絞られながら身につけた若い人。それらが一緒になった空間を見せてもらって『続けてほしい!』と思いました。

こういったものの中に何かが生まれてくる感じが、すごくしています。ここには、何かあるよ。

そんな木田さんの言葉で、力強く〆られた今回のトークショー。

参加者からの質問も多く寄せられ「新しい何かが生まれている空間に、立ち会っている」という熱気が、会場全体を包み込んでいました。

数寄デザイン運動が生み出す、伝統的な素材とテクノロジーが融合した、まだだれも見たことのないような空間。そこで未来の私たちは、どんな暮らしをしているのでしょう。

この銀座のビルの5Fに突如現れた和空間も、そんな暮らしを可視化する試みのひとつです。木田さんの言う「ここにあるもの」が何なのか、是非みなさんの目で確かめに来てください。

建築家・佐野文彦さんと、ソニーLife Space UX が提案する「新しい日本の居住空間」展示は、2017年・1月末までの期間限定展示です。

新しいものが生まれている瞬間に、あなたも立ち会ってみませんか。

 

(TEXT BY SATOKO HIRANO)

(PHOTO BY ARI TAKAGI)


【建築家 佐野文彦とソニー Life Space UX が提案する「新しい日本の居住空間」】

 

展示期間:2016年10月26日〜2017年1月下旬(3カ月間)※予定

営業時間:11:00〜19:00

定休日:なし(※ 1/1、年2回法定点検日を除く)

会場:東京・銀座 ソニービル5F ソニーイノベーションラウンジ(東京都中央区銀座5-3-1)

展示情報ページ:

http://www.sony.co.jp/Products/products-for-life-space/news/report_20161024.htm


Life Space UX Talk Vol.1

日時 2016年 10月31日

会場 東京・銀座 ソニービル(ソニーイノベーションラウンジ)

登壇者 佐野文彦 (建築家 / 美術家)
    木田隆子 (『ELLE DÉCOR』 ブランドディレクター)

主催 ソニー株式会社

企画・運営 VOLOCITEE Inc.