「性格を掴む」から広がる発想とは。

クリエイターやアーティストを迎え、大切にしている視点や現場で使用しているツールなどから、新しい空間観察方法を一緒に考えるイベント『空間観察学』。今回は、3331 Arts Chiyodaで開催していたメディア芸術祭20周年企画展「変える力」と連動した特別編です。

2016年11月1日のゲストは、作品『group_inou 「EYE」』にてメディア芸術祭第19回エンターテインメント部門新人賞を受賞した映像作家のノガミカツキさん。

ノガミカツキ  武蔵野美術大学在学中にベルリン芸術大学に留学し、メディアアートの分野で活動。海外ではFILE、WRO、Scopitone、International festival spainに、国内では六本木アートナイト、Future Catalysts Hakuhodo × Ars Electronica、札幌国際芸術祭関連企画に出演。現在はアーティスト活動の他に、映像関連の仕事にも領域を広げ、group_inouやラブリーサマーちゃんのMV、Maltine Recordsのドキュメンタリー映像など、様々なジャンルの映像を手がけている。

ノガミカツキ  武蔵野美術大学在学中にベルリン芸術大学に留学し、メディアアートの分野で活動。海外ではFILE、WRO、Scopitone、International festival spainに、国内では六本木アートナイト、Future Catalysts Hakuhodo × Ars Electronica、札幌国際芸術祭関連企画に出演。現在はアーティスト活動の他に、映像関連の仕事にも領域を広げ、group_inouやラブリーサマーちゃんのMV、Maltine Recordsのドキュメンタリー映像など、様々なジャンルの映像を手がけている。

さて、会場となった3331alpha には、今宵も様々な分野の参加者が集結しました。映像ディレクター、音楽家、カメラマン、美大生、イベントプロデューサー、歯科衛生士、 CXデザイナー、メーカー勤務、広告業界の方などなど。ノガミさんのファンなんです!という熱い思いを持った方も多数いらっしゃいました。

 

身近なテクノロジーが、世界を表す。

「高校の時、音楽をやっていたんですが、途中で諦めてしまいました。でも音楽の仕事がしたい、とはずっと思っていたんです。」

そんなノガミさんの言葉からはじまり、スクリーンに映し出されたのは、ノガミさんがメディア芸術祭で新人賞を受賞した 『group_inou 「EYE」』。

Google Street ViewTM上の膨大な写真を繋ぎあわせ、その世界の中をgroup_inouの2人が駆け抜けるミュージックビデオです。

世界のどこかである時に撮影されたであろう、見たことあるようで、全然知らない風景。時折、どこか感じる違和感。私たちの世界とは別の、第3世界の中に入り込んだような感覚。

ノガミさんは、この作品を通して「世界の歪み」を表現したかったといいます。

「Street Viewは複数枚の写真を継ぎ合わせて1枚のパノラマ画像を生成しますが、撮影者の位置の画像の部分は存在しません。スッポリ空いたその箇所を無理矢理継ぎ合わせているため、Street View上の世界には不思議な特異点が現れます。

この特異点を『世界の歪み』と捉え、そこから別の世界への入り口が広がって行くような体験を促すようにこの作品は構成されています。同じ場所であっても、撮影者それぞれの視点や時間が1枚のパノラマに凝縮され、新たな世界がインターネット上に再構築されて行く様子が映像に落としこまれています。

最先端のテクノロジーだけではなく、Googleなどいつも使っている身近なテクノロジーの中に潜むノイズのようなもの駆使して、作品を作っているんですよね。」

次にスクリーンに映し出されたのは、SPAMメールに着目して作られた作品『Heartfelt SPAM』。

意味の分からない怪しいSPAMメールが来たことって皆さんもありませんか?

botが作成したSPAMメールの内容を、女の子が便箋に手書きで清書し封筒に入れ、手紙にするこの作品。無機質な内容のSPAMメールも、手書きの手紙として受け取るだけで、心が温かくなりメールの印象が変わるのではないかという試みです。

「インターネットに関するものが売買されるフリーマーケット「インターネットヤミ市」がベルリンで開催された時に、この作品を販売しました。

ドイツで開催されたので、海外の人向けにGoogle翻訳で英語に変換したものも作成したんです。でも、Google翻訳なので、誤訳が多くて。例えば「ありえないっしょ。」っていう文が「impossibleっしょ」ってなったり(笑)。こういう意図しないおかしな誤訳が、テクノロジーの中に潜んでいるノイズのようなもので、実は、作品を作る時の未知の可能性になったりするんです。」

Googleが誤訳したSPAMメールを見て、会場からもクスッと笑い声が。普段迷惑だと思っているSPAMメールやGoogleの誤訳が、視点が変わるだけで、人の心を掴む作品に変化しているのです。

「僕が何かを表したいとかではなくて、身近なテクノロジー、例えばGoogleやAdobeのサービスなど、すでに世の中にあるサービスがもう世界を表している。そういったサービスを求める人たちがいる時点で今の日本、あるいは若者といったような世界が表されていると思うんです。」

 

『性格』を掴む。

では、一体ノガミさんは身近なテクノロジーをどのように捉えて、自身の作品に落とし込んでいるのでしょうか?

それは、『性格』を掴むという視点だとノガミさんは言います。

普段、身近な物事であっても、その物事はどんな『性格』なんだろう?と考えてみる。

言われてみると確かに。身の回りにあるものほど、何も考えずに当たり前のように私たちは使っていますね。

「ここで皆さんにも、身近なあるものの『性格』について考えてもらいたいと思います。」

というアナウンスとともに司会者が取り出したのはスマートフォン。

「今回考えていただくお題は、皆さんがいつも使っているスマートフォンです。手元のスケッチブックに、自分が持っているスマートフォンがどんな『性格』かを書き出していってもらいたいと思います。」

戸惑いながらも、周囲の参加者と話しながら、スマートフォンの『性格』を考え始めた皆さん。

「触られたい、スキンシップがほしいっていう性格。スマートフォンはつるつるしていて、触りたくなるから。」

「寂しがり屋。スマートフォンでメッセージをやり取りするのは人と繋がりたい感じがする。とにかく一人じゃなくて何かと繋がっていたいイメージがあるから。」

「八方美人な、ハイスペック彼女。例えば、SNSは自分をいいように周りアウトプットできるし、スマートフォンは音楽も聴ける、地図も見れる、写真も撮れる優れもの。でも毎日充電しないと使えないっていう可愛らしくて手のかかる一面もあるから彼女みたいな存在だな~と思った。」

などなど、それぞれが思い描くスマートフォンの『性格』が出てきました。

続いて、ノガミさんが考えたスマートフォンの性格が共有されます。

「僕は、皆さんと『性格』の捉え方が違うかも……。皆さんはスマートフォンを擬人化して、『性格』を捉えていたけれど、僕は側面を捉えていきました。こういう時、面白くなくていいので特徴をものすごくたくさん書き出すんです。」

ノガミさんのスケッチブックを見ると、ぎっしりとスマートフォンの特徴が書き込まれています。

  • つるつる
  • 穴が空いている
  • キラキラした粒が見える
  • 光を出す
  • スピーカー
  • GPS
  • 埃がたまっている 声
  • 目覚まし
  • スケボーにもなりそう
  • 反射している

などなど。

確かに先程、iPhoneを食い入るように観察していたノガミさん。

そのものの見た目や性質の特徴を書き出すことから、イメージを膨らませていく。擬人化だけが『性格』ではないということに会場がハッとさせられた瞬間でした。
 

『性格』として捉えると、新しい長所が見えてくる。

『性格』を掴むという視点に関する背景に関して、ノガミさんは、タブレットをモチーフに制作した作品を見せながら、話し始めました。

「今、皆さんにも実際にスマートフォンの性格を考えもらったように、タブレットの『性格』を掴むことから、この作品は生まれました。写真が撮れて、ディスプレイにもなる、顔と同じくらいのサイズだな、SNSのアイコンのようだ、インターネットにもつながって画像も送れるといった特徴からどんどんイメージが膨らんだんです。街中で人の顔をタブレットで撮り、その画像が自分の顔になるという作品です。これはベルリン留学している時に森美術館での展示作品として制作したもので、東京で撮った写真はベルリンに、ベルリンで撮った写真は東京にその場で送られてタブレットに表示されます。画像がインターネットで瞬時に世界を超えている当たり前の事実が体感できる構成になっています。」

タブレットを顔につけ、世界中から送られてくる他人の顔で街を歩いたり、電車に乗ったり、生活する人々。それは、まるで一時的で匿名性のあるインターネット上のアイコンと同じ意味を持っているように見えます。

「次は皆さんで、このソニーのポータブル超短焦点プロジェクターの『性格』を掴んで、その性格を生かすアイディアを考えてみましょう。」

先ほどの課題から得た新しい視点を活かし、今度は参加者の皆さんも、プロジェクターそのものの性質について観察し始めました。

「このプロジェクター、縦に積み上げれそう。電柱として、積み上げて夜道を照らしたら、楽しみながら家に帰れるんじゃないか。」

「肩に載せれそう。HIPHOPの初期のラジカセのように、プロジェクターを肩に乗せて、音楽やファッションとコラボレーションできそう。映像を通して自己表現ができるのでは。」

「小型で、映像を電波で飛ばせる性質がある。ドローンにつけて、街頭のビジョンを自分でジャックしたり、勝手に街頭ヴィジョンを街中に作る。渋谷のビルとかに映したら面白いんじゃないか。」

先ほどとは打って変わり、次々と出てくる奇想天外なアイディア。

ノガミさんの視点にインスパイアされて、参加者の発想はどんどん飛躍していく...…

「床に映像が映せるのを見て思ったんですが、置いた場所の反対側が今どうなっているんだろうって。普段見えない地球の反対側の今が映ったら、世界との新しいつながり方が生まれそう。」というアイディアにはノガミさんからもいいねの声が。

「おお。置いただけで、見れるのはすげー!GPSで位置情報は取れるので、すぐ実現できると思います。」と、ノガミさん。

ノガミさんとの作品のコラボレーションなるか!? 会場の温度もグーンと上がりました。

「身の回りのものの当たり前の価値観に操作されていたくなくて、できるだけ頭を使うようにしています。一つのものの性格を考えてみるということから、広がる発想や見えてくる新しい価値があると思うので、皆さんが何か新しいアイディアを生み出すときなどの参考になればいいなと思います。」

ノガミさんからの締めのアドバイスで、イベント終了と思いきや…...!皆さん興奮冷めやらず、終了後もノガミさんを囲んで、アイディアをどんどん拡張させていました。

今回の空間観察学は、アーティストならではの視点に触れる、貴重な時間になりました。

皆さんも是非、身の周りの物事の『性格』を掴む、実践をしてみてください。

次回はどんな視点が開かれるのでしょうか?

今の自分への新しい視点のインストール、一緒に体験してみましょう。

 

TEXT BY SAKI HIBINO

PHOTO BY TETSUHITO ISHIHARA


『空間観察学』メディア芸術祭20周年特別編 #01 presented by Sony Life Space UX Lab.
 

日時 2016年11月1日
会場 3331alpha
 

登壇者 ノガミカツキ(映像作家)

主催 ソニー株式会社

企画・運営 VOLOCITEE Inc.