「進化する落語を体感せよ。」Life Space UX 新春初笑い

今、盛り上がりを見せる娯楽の一つ、「落語」。江戸時代から400年余り経った現代に引き継がれ、噺家の手で日々進化する落語の世界。

今回ご紹介するのは、2017年1月12日、ソニービル5Fのソニーイノベーションラウンジで行われたイベント「Life Space UX 新春初笑い落語」。Life Space UXと落語がコラボレーションし、新しい新春の楽しみ方を提案します。

ゲストは、落語家の林家けい木(木久扇門下)さんSHUHALLY庵主で、現代における「茶の湯」のあり方を探求し続けるアート集団『The TEA-ROOM』を主催する茶道家の松村宗亮さん和菓子作家の坂本紫穂さん

会場となったソニーのイノベーションラウンジは、Life Space UXが提案する新しい日本の居住空間の展示中。

新年を祝うお囃子が、机の上に置かれたグラスサウンドスピーカーから奏でられ、参加者の皆さんを出迎えます。

江戸時代以来、「平成の落語ブーム」

「今日お越しのお客さんの中で、初めて落語を聴く方はどのくらいいらっしゃいますか?」

けい木さんの質問に、会場の半分ほどの方が挙手をしました。

「半分のお客様は、落語を聴いたことがあるんですね。嬉しいことです。先日も新宿の東急ハンズで落語心中フェアというのがあったんですよ。漫画『昭和元禄落語心中』とコラボして劇中に出てくる落語を幾つかお話しました。100人ほどのお客さんがいらして、大盛況。ほとんどのお客さんが落語を聴くのが初めてでしたが、漫画やアニメがきっかけで落語に興味を持っていただいたんですね。」

昨今、街中のカフェや映画館など様々な場所で開かれる落語のイベント。その数は東京周辺だけで、なんと月1,000件以上。これは10年前の倍の数です。深夜寄席には行列ができ、20~30代のファンが急増。2年程前から、「江戸時代以来」の落語ブームが巻き起こっていると言われています。

デジタル隆盛の中、落語特有のライブ感や世界観に共感し、魅了される人々も少なくはありません。

落語を初めて聴くお客さんにもわかりやすく落語の豆知識を教えてくださるけい木さん。

「僕が座っている台は高座と言います。高座の上に引いてある布は緋毛氈(ひもうせん)といって、血液と同じ色をしています。光が当たると噺家の血色がよく見える効果があるんですよ。そして、僕が座っているこの座布団。4つの辺で出来ていますが、観客に向いている辺だけ縫い目がありません。これは観客と噺家の間に縁の切れ目がないようにと意味が込められています。

おっ! わざわざ前まで来ていただいてありがとうございます。もれなく私の唾が飛んできますよ。」

噺家とお客さんとの掛け合い。この密な距離感も、落語のまたいいところ。

けい木さんは、テレビ出演やものまねなど、枠組みを超えて活躍する若手落語家。最近では、古典芸能×HIPHOPをコンセプトにダンサーやビートボクサーとコラボし、ジャンルを超えた次世代の大衆芸能に挑戦。古典落語の世界に現代的な“ノリ”を加え、幅広い層に落語の魅力を伝えています。

恋あり、喧嘩あり。おでんの鍋は今日も熱い。「ぐつぐつ」

「最近はNHKで『超入門落語THE MOVIE』という番組がございまして。噺家の語りに合わせて再現役者の口が動く、アテブリ芝居で落語を楽しむ番組ですね。古典落語の世界を映像に落とし込み、実際に役者が演じるので、落語初心者の方でも分かりやすいんです。今日は私とソニーの商品とでコラボレーションをし、それに近いことに挑戦します。」

すると、グラスサウンドスピーカーから雑踏の音が。

「これはとある私鉄沿線でのお話でございます。終電車が終わった後、改札を出て行く人々はそれぞれの人生を歩むかのようにそれぞれの路地へ姿をすーっと消していく。十年一日のごとくビニールの桜が満開の商店街。左右に冷たい自動販売機の光がポツンポツン。魚屋さんのシャッターの前に屋台の明かりが見えます。残業帰りのOLと言葉を交わし、忙しく働くおやじ……」

雑踏の音に溶け込むようにけい木さんの噺が始まります。その語りに合わせて、けい木さんの背後の4K超短焦点プロジェクターによって、赤提灯とおでんの屋台が現れました。

今夜の一つ目の噺は、柳家小ゑん作、おでんを擬人化したシュールな新作落語「ぐつぐつ」。ぐつぐつ煮込まれるおでんのお鍋に耳をそばだててみると...

「はんぺんちゃんはいいねえ、色が白くて肌はつるつるで」

「絡んでくるなよ、糸こんにゃく」

「ゲソまきが蛸の足を踏んだ」

主人公「イカ巻き」さんと個性豊かなおでんたちの会話が聞こえてきます。

次々と売れていく具に対して、なかなか売れない主人公「イカ巻き」さん。恋あり、喧嘩あり。そして、唐突に訪れる奇想テンガイな結末。

登場人物のキャラクターに合わせてけい木さんの口調も変わります。それはまるで別人が演じているよう。そして、その噺に合わせて流れる音と映像が、私たちをリアルな落語の世界へ誘います。

オツなあくびは稽古で習うもの?「あくび指南所」

「新年でございますからね。これを機に、新しいことにチャレンジしようとする人も多いんじゃないでしょうか?」

けい木さん自身の新しい挑戦「ランニング」をまくらに、2席目の落語が始まります。

「まあ昔もそうだったようですね、何か身につけてみようということで、新しいことに挑戦するのは変わらない。

昔は町内に一件は稽古場があったそうです。そういったところへ行っちゃあ、唄ですとか踊り、都々逸(どどいつ)、三味線といったものを教わったりした。まあ、まともなものはよかったですけどね。中には変わった稽古場なんてものがあったようでして……」

2席目は古典落語の「あくび指南」

主人公は、習い事をする度に、必ず事件を引き起こしてしまう問題児・熊五郎と友人の八五郎。ある日、八五郎は熊五郎から、習い事に誘われます。その習い事とはなんと、あくび。

延々と続く熊五郎のあくびの稽古にうんざりする八五郎。退屈のあまり大あくびをしてしまいますが、それを見た師匠が、「あら、お連れさんのほうがお器用だ。見てて覚えた。」とオチが決まる小噺です。

この噺は、聞いてる客の方があくびをするように、ことさら下手くそに演じるのがコツだなんて言われていますが、けい木さんの語りはコミカルで、会場を笑いで包みます。

噺家さんの語りから自由に想像を膨らます「ゆとり」があることが落語の魅力。少し難解な古典落語の世界が音と映像によってぐっと広がっていきます。気づけば、あっという間に2席が終了。

 

新年を祝うお茶会も。

046C6587.jpg

仲入りの時間には、『The TEA-ROOM』メンバーの松村宗亮さんによるお茶会も開催。

お茶を覗いてみると、金箔が! 皆さんに幸ある一年を。という意味を込めて縁起のいいお茶が振る舞われます。

器は、陶芸家北川チカさん作の、「嶋台茶碗」。新年で使われるおめでたい茶碗です。

お茶会で振る舞われた和菓子は、和菓子作家の坂本紫穂さんによる作品。今回は、落語からインスピレーションを得て、「笑う門には福来る」をテーマに作られた、紅白が美しいきんとんの和菓子です。Life Space UX のオリジナルお懐紙に乗せて、客人のもとへ。

 

落語家は一生が修行。

前座見習いの仕事は、師匠の身の周りの世話、修業(落語、着物作法、鳴り物の稽古など)。そして師匠から許可がると楽屋入り、前座となり、高座にあがることができます。二ツ目になると、ようやく一人前。師匠の家や楽屋での雑用がなくなり、今までは着流しだった着物が紋付、羽織、袴に変わります。

そして最後が真打。真打になると、師匠と呼ばれ、弟子をとることもできます。寄席のトリを飾るのは真打だけ、落語界の中で真打は最高身分。ですが、噺家にとって真打はゴールではなく、ここからがスタートの時。日々、芸を磨いていかなければなりません。

現在、二ツ目のけい木さん。師匠にデザインしていただいた、自身の「手ぬぐい」を取り出します。手ぬぐいは噺家にとって名刺がわり。二ツ目になって初めて持つことができます。

けい木さんの手ぬぐいは、お相撲の柄の手ぬぐい。会場のお客さんにも、手ぬぐいをプレゼント!

夢か?現実か?パラレルワールドの人情噺「芝浜」

「東京が江戸と呼ばれていた時代。今まさに、揉めている東京の豊洲移転問題なんてのがありますが、東京の市場といえば、築地。」

豊洲の移転問題を絡めたまくらから、今日のトリ、3席目がはじまります。

3席目は、年末の風物詩と呼ばれるくらい有名な人情噺「芝浜」。

ある冬の朝、大金の入った財布を拾った魚屋の勝五郎。

さっそく、酒を片手にドンチャン騒ぎ、大金をあてにして働きません。案じた女房は、泥酔し目が覚めた勝五郎に、財布を拾ったのは夢だったと思い込ませてしまいます。飲んだツケだけが残り、酒はもうたくさんと改心した勝五郎はまじめに働き、3年経った後には、表通りに店を出すまで大出世。

3年後の大晦日に女房は真実を打ち明けますが、勝五郎はかつての自分のふがいなさを思い出し、深い愛情に心を打たれます。女房が用意してくれた酒を手に取りますが、そこでひと言。

 「よそう、また夢になるといけねぇ」

とオチが決まります。

「芝浜」は、笑わせるよりホロリとさせる人情噺ですが、最後のオチは現実がほかにも存在する世界=パラレルワールドを彷彿とするSFを思わせます。

主人公・勝五郎の心情、女房の心のゆれ、物語には描写されない二人の本心。描き出される人間の業に味わいを感じる名作です。

この芝浜は、三題噺として誕生したといいます。三題噺とは、人、場所、物品のお題をお客様からいただき、即興で落語に仕立てるものです。題は「酔っ払い、芝浜、革財布」。

「芝浜」を演じた噺家の中で、有名なのが「芝浜の三木助」と謳われた3代目桂三木助。三木助の芝浜の特徴は、聴き手に情景をまるで絵画のように鮮明に見せる描写力。物語で一度だけ芝浜が描かれる、勝五郎が財布を拾うシーン。朝日に照らされた夜明けの真白い浜、静かに揺れる穏やかな波、周囲に建物ひとつ無い美しい芝浜。三木助の語りは聴き手の脳裏にこの芝浜を鮮明に映したそうです。

その後も、数多の名人たちが女房や勝五郎にそれぞれの人生観を反映させ「芝浜」は今に受け継がれています。例えば、7代目立川談志は「芝浜」を演じるたびに新しい試みを行い、自身の「芝浜」を磨き上げてきました。残っている音源を聴き比べると、その変化や奥深さに驚くはず。

同じ噺でも、噺家によって異なるストーリー構成、人物描写。

聴き比べていくと、更なる落語の面白さに気づくことができます。

進化し続ける伝統芸能、落語。

落語家林家けい木さんとLife Space UX のコラボレーション。一見すると難しく感じる落語に、映像と音が加わったことで、まるで落語の世界が目の前に広がるよう。

会場全体で一緒に笑い、ホロリとする。その空気にほっとするお客さんもいたようです。

落語には笑いだけでなく、人と人との絆や人情、粋など、今の社会の中で希薄になりつつある豊かさがあります。

伝統芸能として、噺家の手で日々進化する最新の娯楽として、多方面で盛り上がりを見せるその世界に、一歩入り込んでみたくなる、そんな一夜となりました。

 

(TEXT BY SAKI HIBINO)

(PHOTO BY TETSUHITO ISHIHARA)


Life Space UX 新春初笑い

日時 2017年1月12日
会場 ソニーイノベーションラウンジ

登壇者 林家けい木(落語家)
http://www.hayashiyakeiki.com/

主催 ソニー株式会社

企画・運営 VOLOCITEE Inc.